患者さまへ

機能的脳神経外科

症候性てんかんに対するモニタリングを併用した焦点切除術、三叉神経痛・顔面けいれんに対する微少血管減圧術、またバクロフェン髄注による痙縮の治療もおこなっております。

三叉神経痛・片側顔面けいれん

三叉神経痛や片側顔面けいれん、舌咽神経痛は、頭蓋内の血管による脳神経への圧迫が原因であるため、神経血管圧迫症候群と総称されます(図1)。当施設では、手術前に3テスラMRI装置を用いて原因の血管をみつけて、この病気に対する外科的治療法である微小血管減圧術(脳神経減圧術)を行っています(図2)。通常よりも小さい開頭で、患者さんにとって負担の少ない手術を心がけ、良好な効果を得ています。

脳の解剖のイラスト

図1 脳の解剖のイラスト
(中山書店、脳神経外科学大系第15巻より抜粋)

脳の解剖のイラスト

図2 59歳女性 左顔面けいれん症例のMRI、MRA画像
A : 手術前のMRI画像 左顔面神経が脳幹から出る部位であるroot exit zone(*)に左椎骨動脈と左前下小脳動脈が圧迫している。 
B:MRA 画像 両側椎骨動脈が左側へ蛇行している。 
C : AとBの融合画像 左顔面神経の脳幹のroot exit zone(〇)で左椎骨動脈(VA)と左前下小脳動脈(AICA)が圧迫している様子が3次元でわかり、手術シミュレーションに有用であった。

三叉神経痛とは?

三叉神経痛は、顔面に激しい痛みが起きる病気です。脳腫瘍などが原因のこともありますが、通常は頭蓋内の血管が三叉神経を圧迫することにより起こります。三叉神経は、脳幹と呼ばれる部分から出て、頭蓋骨の小さな穴を通って顔面に分布していき、顔の感覚(痛い、触った、冷たい、熱いなど)を脳に伝える役割をしています。三叉神経が脳幹から出たところで、血管により圧迫され、異常な神経興奮を起こすようになり、痛みが起きると考えられています。痛みの性質は「電気ショックのような」「ズキンとするような」「突き刺すような」などと表現されます。痛みはなんのきっかけもなく突然やってくることもありますが、顔を洗う、食事で物を噛む、歯を磨くなどの行為により誘発されます。そのため、虫歯と間違われることもあります。痛みがひどくなった場合には、食事を摂ることさえもできなくなります。

三叉神経痛の治療

治療としては、まずは内服薬を使います。通常の鎮痛剤では効果がないため、カルバマゼピン(けいれんなどに使う薬)が第一選択です。カルバマゼピンは眠気、ふらつき、発疹、肝機能障害、白血球減少症、貧血、血小板減少症などの副作用がみられることがあります。その他、プレガバリン、バクロフェン、バルプロ酸、クロナゼパム、ガバペンチンなども用いられることがあります。一般的には内服薬を少なくとも2種類使用しても痛みが治まらない場合には、手術を考慮すべきと思われます。
手術は、全身麻酔で行います。耳の後ろの皮膚を約5~6 cm切開し、この部分の頭蓋骨に500円玉くらいの大きさの穴を開ける、いわゆる「鍵穴手術」と呼ばれているものです(図3)。

右三叉神経痛症例

図3 75歳男性 右三叉神経痛症例 皮膚の切開線を黒線で示している

手術用顕微鏡を用いて行いますが、脳を覆っている硬膜を切開し、小脳を露出します。小脳を軽く圧迫しながら徐々に奥に進んでいき、三叉神経と圧迫する血管を確認します。この原因となっている血管を移動させることで、三叉神経への圧迫を解除して、再び移動して圧迫しないように血管をテフロン®(フッ素樹脂製のシート)で挟み込んで、組織接着用のフィブリン製剤を用いて硬膜に固定します(図4)。その後は硬膜を閉じて、頭蓋骨の切除した箇所は頭蓋骨固定用のチタン製プレートで修復します。 
また、術後の聴力障害の発生リスクを下げるために、術中の聴力のモニタリングを行いながら手術を行います。具体的には、手術中に両耳に装着したイヤホンから、持続的にある一定の音を聞かせ、それによって生じる聴力を司る神経の脳波を確認しながら手術を行います。

右三叉神経痛症例

図4 73歳女性 右三叉神経痛症例
A : 手術前のMRI画像。SCA(上小脳動脈)がV(三叉神経)を圧迫している。 
B : 術中写真 術前シミュレーション通りに、SCAがVを圧迫していた。 
C : 術中写真 テフロン®を用いて、上小脳動脈を移動させ、三叉神経への圧迫は解除された。

その他の治療法として、経皮的三叉神経節ブロック、定位放射線治療であるガンマナイフ治療などがあります。

片側顔面けいれんとは?

片側顔面けいれんは、顔の半分が自分の意思とは関係なくけいれんする(ピクピク引きつるように動く)もので、通常は目の周囲から始まり、次第に鼻、口元、顔面全体へ広がります。最初は緊張したときなどに時々起こる程度ですが、徐々にけいれんしている時間が長くなっていき、一日中、ときには寝ていても起こるようになります。さらにひどくなると、顔面がゆがんだままになり、眼がほとんど閉じた状態になってしまうこともあります。ストレス・疲労・精神的緊張や会話・食事などにより、症状が悪化します。原因としては、顔面神経が脳幹から出た部分で、血管により圧迫され、異常な神経興奮を起こすようになり、けいれんが起きると考えられています。画像診断として、三叉神経痛の場合と同様に、MRIの融合画像を用いて、責任血管を診断しています。

片側顔面けいれんの治療

顔面けいれんの治療には、内服治療、ボツリヌス治療および手術があります。内服治療としては、カルバマゼピンやクロナゼパムなどが使われますが、効果はあまりありません。2000年にA型ボツリヌス毒素製剤による片側顔面けいれんの治療適応が認可されて以来、これが治療の第一選択になることが多くなりましたが、3~4か月ごとに注射することが必要となります。
手術は、三叉神経痛の場合と同じような方法で行いますが、三叉神経痛の場合よりもやや下の位置に小開頭を行います。深部にある顔面神経を脳幹から出る部分で圧迫している血管を確認し、テフロン®を用いて移動させます。
2008年7月から2020年3月までに、当科で71例にMVDを施行した。その実績を以下に示します。

当科における手術成績(2008年7月~2020年3月)
三叉神経痛
46例
(1例舌咽神経痛との合併あり)
Excellent
(症状が完全に消失)
37例(80%)
Good
(薬物療法などでコントロール可能)
9例(20%)
片側顔面けいれん
25例
Excellent 22例(88%)
Good 3例(12%)
合併症 再発 3例
聴力障害 4例
術後出血→水頭症 1例

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