患者さまへ

下垂体腫瘍

脳下垂体は頭蓋骨の底のトルコ鞍というくぼみのなかにあり、文字通り脳から垂れ下がっているように見えます(図1)。脳下垂体からは多くのホルモンという物質が分泌されており、小児期から思春期にかけて手足や内臓の成長を促す成長ホルモンや出産後に乳汁を分泌させる働きをするプロラクチンなどが知られています。
脳下垂体にできる脳腫瘍のひとつが下垂体腺腫と呼ばれるものです。脳腫瘍のなかでは3番目に多いのですが、発症の頻度としては年間10万人あたり2~3人と、けっして多くはありません。

脳の解剖のイラスト

図1 脳の解剖のイラスト
下垂体は、英語でpituitary glandと言います。

下垂体腺腫の症状

下垂体腺腫の症状には、大きく分けて腫瘍の大きさにより生じる症状と腫瘍から分泌されるホルモンによる症状とがあります。大きな腫瘍では下垂体の近くを通る視神経や眼を動かす神経を圧迫するために、視野がせまくなる、物が二重にみえるなどの症状がでてきます。また、小さなものでも、成長ホルモンが多く分泌されれば、顔つきがかわったり、手足が大きくなったりして、指輪や靴のサイズが合わなくなります(巨人症先端巨大症)。プロラクチンが過剰に分泌されると生理がなくなり、乳汁が出るなどの症状がみられ、女性不妊症の原因にもなります。
上記のような症状がみられれば、治療を行うことが必要となります。一部の下垂体腺腫には薬物が効くものもありますが、そうでない場合は手術を行うことになります。通常の脳腫瘍と違い、頭蓋骨を外す開頭術ではなく、多くの場合、鼻の穴や歯茎の上の粘膜を一部切って、図2のような経路で腫瘍にたどりつき、摘出を行います。

下垂体腺腫のMRI写真

図2 下垂体腺腫のMRI写真
◯で囲んである部分が下垂体腺腫、→が手術での進入経路を示します。

1960年代にX線透視装置手術用顕微鏡を導入し、この手術方法を確立したのがカナダ出身のJules Hardy先生(図3)であり、経鼻的経蝶形骨洞手術(TSS)は別名、Hardy(ハーディー)手術と呼ばれています。

国際下垂体学会(2012年6月 於モントリオール)にてHardy先生との記念撮影

図3 国際下垂体学会(2012年6月 於モントリオール)にてHardy先生との記念撮影

耳鼻科医との合同手術

1990年代半ばから、内視鏡を利用したTSSが世界的に普及してきましたが、当施設では1996年に国内では最も早い時期に内視鏡を導入しました。最近では手術用ナビゲーションHi-vision内視鏡を応用し、国内ではまだ限られた施設でしか実施されていない耳鼻科医との合同手術でTSSを行っています(最近の手術実績に関しては、後で示します)(図4)

当施設における耳鼻科医と脳神経外科医合同による経鼻的手術の風景1

当施設における耳鼻科医と脳神経外科医合同による経鼻的手術の風景2

図4 当施設における耳鼻科医と脳神経外科医合同による経鼻的手術の風景

近年、手術技術の進歩と経験の蓄積に加え、内視鏡のハイビジョン化、専用手術器具の開発などにより、TSSによる手術適応が拡がっています。これまで、主に開頭術が行われていた頭蓋咽頭腫髄膜腫といった脳腫瘍に対しても、いわゆる拡大TSSを行う施設が増えてきていますが、当科もその一つです。
また、当院では全国に先駆けて、2003年12月に3T MRIが導入されました。従来のMRIよりも高品位な形態画像を得ることができるため、非常に小さな腫瘍を見つけだすことも可能となり、手術成績のさらなる向上に役立っています。TSSを安全に行うためには、より繊細で高度な手術技術が必要であり、最新の画像診断装置を駆使し、綿密な手術計画を立てることが重要であると考えています。

代表症例

症例:22歳女性、視力・視野障害でみつかった非機能性下垂体腺腫症例

図5 症例:22歳女性、視力・視野障害でみつかった非機能性下垂体腺腫症例
a, c:手術前MRI 
b, d:手術後MRI、腫瘍が消失していることがわかる。
術後、視力・視野障害は改善。

症例:76歳女性、視力・視野障害でみつかったラトケ嚢胞症例

図6 症例:76歳女性、視力・視野障害でみつかったラトケ嚢胞症例
a, b:手術前MRI 
c, d:術中写真(d, *:視交叉,→:下垂体茎) 
e, f:手術後MRI
通常のTSSでは摘出困難であったため、拡大TSSを行った。視力・視野障害も改善したが、中枢性尿崩症や下垂体機能低下症が残り、現在、ホルモン補充療法を必要としている。

2012年11月以降(2017年3月末まで)施行したTSS 83症例のうち
耳鼻科医との合同手術を行った64例(77%)の内訳

下垂体腺腫 48例
ラトケ嚢胞 6例
鞍結節部髄膜腫 2例
頭蓋咽頭腫 2例
その他 6例
拡大経蝶形骨洞法
11例
亜全摘~全摘 11例中10例
(91%)
視機能障害の改善率 7例中7例
(100%)
非機能性腺腫 亜全摘~全摘 29例中24例
(83%)
視機能障害の改善率 16例中15例
(94%)
眼球運動障害改善率 2例中2例
(100%)
GH産生腺腫
(先端巨大症)
コントロール良好群 15例中12例
(80%)
ACTH産生腺腫
(クッシング病)
内分泌学的治癒 2例中2例
(100%)
合併症 術後腫瘍内出血 1例
鼻出血 1例
慢性硬膜下血腫 1例

中海テレビ放送の「聞いて納得!-医療最前線-」に
当科の黒﨑教授が出演されました。

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